量子ドット
 2011年4月には、量子ドットの新規構造を導入することで、従来63%とされてきた理論変換効率が、75%にまで達することが世界で初めて明らかになった。これは現時点で理論上検証されている太陽電池のなかでも最高の変換効率


量子ドット太陽電池入門−量子ドット太陽電池最前線

 量子ドット太陽電池とは、東京大学の荒川教授と株式会社シャープが産学連携で研究している、大きさがナノメートル(10億分の1メートル)サイズの半導体微粒子(量子ドット)を使った太陽電池。2011年4月には、量子ドットの新規構造を導入することで、従来63%とされてきた理論変換効率が、75%にまで達することが世界で初めて明らかになった。これは現時点で理論上検証されている太陽電池のなかでも最高の変換効率である。

太陽電池の仕組み

単一のバンドギャップで高い効率を得ることは難しい

太陽電池には数多くの方式があるが、現在広く実用化されているのは、結晶シリコンを用いた半導体のPN接合による光起電力現象(フォトダイオード)を用いたものである。こうした半導体のPN接合には、バンドギャップと呼ばれる値があり、これはP半導体からN半導体への電子の移動に要するエネルギー量を意味する。太陽光などの光子から、バンドギャップ以上のエネルギーを受け取ったときに、電子が移動することで電圧が発生し、外部に接続した回路へと電力の供給が行われる仕組みである。上の図のように、通常の太陽電池(単接合型)は、単一のバンドギャップしか持たず、このバンドギャップを越えることのできない赤外以下のスペクトル領域は、利用することができない。

変換効率の限界を決めている要因

より具体的には、紫外線から可視光、赤外線に至る太陽光の各スペクトル領域について、表1のように光子の持つエネルギー量は波長によって一意に決定される(波長に反比例したエネルギー量を持つ)ため、バンドギャップを超えることのできない光子は、太陽電池に吸収されることなく、無駄になってしまうのだ。  バンドギャップ以下の波長の光が利用できないのであれば、バンドギャップを赤外領域以下にまで下げれば良いように一見考えられる。しかし、むやみにバンドギャップを下げてしまうと、今度はより高エネルギー(短波長)の光のエネルギー吸収効率が下がってしまう。例えば1.1eV(波長1100nm相当)のバンドギャップを持つ太陽電池は、2倍以上のエネルギー量を持つ紫から橙色(620nm〜380nm、2.0eV〜3.3eV)の光を吸収しても、各光子につき半分以下の1.1eVまでしか電気に変換することができず、残りを熱としてロスしてしまう。
 従って、吸収する波長に合わせ、なるべく高いバンドギャップを設定することが、太陽電池のエネルギー変換効率を高めるためには必要不可欠なのだが、太陽光線は前述のように幅広いスペクトルを持っており、単一のバンドギャップで高い効率を得ることは理論上難しい。

変換効率を上げる工夫

 エネルギー変換効率を高めるための工夫の1つとして、複数のバンドギャップをもつ多層構造の半導体を形成し、太陽電池とする方法がある。

 まず、高エネルギー、短波長な光を吸収する高バンドギャップな半導体の層があり、次に中程度のエネルギーと波長に合わせたバンドギャップの層、さらに低エネルギー、長波長の光を逃さずに吸収する層、と複数のバンドギャップの層を積層することで、スペクトルを分担して、ヒートロスを最小限にすることが可能になる。こうした構造を多接合型太陽電池と呼び、現時点では3層構造で40%近くの変換効率が実現されている。
 しかし、こうした構造は層の数が増えれば増えるだけ製造コストも上昇してしまうため、大量生産には向いていない。実際、現時点で多接合型太陽電池の主な用途は宇宙開発が主となっている。インジウムやガリウム、ヒ素といった希少元素を使用するため、資源面での問題も少なくないほか、毒性などの問題も指摘されている。

量子ドット太陽電池の仕組み

 多接合型とは異なるアプローチで、よりシンプルな構造でも複数のバンドギャップを得られる方法。それが量子ドット太陽電池である。
 PN接合の半導体を用いるのは他の太陽電池と同じだが、その接合部にナノメートルサイズの微小なドットを規則正しく配置することで、接合部に発生するバンドギャップに、中間バンドと呼ばれる踊り場のような位置(エネルギー準位)を発生させることができる。例えば全体のバンドギャップが2.0eVのときに、中間バンドをひとつ0.5evの位置(エネルギー準位)に配置すれば、0.5eV、1.5eV、2.0eVの3つのバンドギャップが存在するのと同じ効果を発揮することができる。
 さらに量子ドットを利用すれば緻密に設計することで、複数の中間バンドを意図的に配置することも可能である。前述の63%から75%への変換効率向上は、中間バンドを4つに増やすことによって達成されたものだ。
 中間バンドが4つあれば、価電子帯(電子の満たされ動かない状態)から各中間バンドまでの4つと、各中間バンドから伝導帯(電子が自由に伝導する状態)までの4つの新たな値のバンドギャップが発生し、計9つのバンドギャップが得られる。

 多接合型の場合、バンドギャップを9つにするには理論上9層のPN接合素子が必要となるが、量子ドットを利用すれば、単一の接合素子でそれを実装することが可能なのだ。これは光学的なロスを最小限にとどめる上でも、大いに有用なことは間違いない。もちろん製造コストについても、量子ドット層の生成技術さえ確立されれば多層型よりも有利である。こうした量子ドットを用いたバンドギャップの複数化を進めれば、将来的には理論変換効率は80%にまで到達すると考えられている。

量子ドット太陽電池の種類


脚注及び関連項目





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