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てっちり

鍋物語

鍋料理は、食材を食器に移さず、鍋に入れた状態で食卓に供される日本の料理。鍋物、あるいはただ鍋(お鍋)と呼んで指す場合もある。複数人で鍋を囲み、卓上コンロやホットプレートなどで調理しながら、個々人の椀や取り皿あるいはポン酢やタレなどを入れた小鉢(呑水という)に取り分けて食べるのが一般的である。特に冬に好まれる。
通常は複数人で囲んで食べるため一抱えほどの大きさの鍋を用いるが、近年では一人用の鍋も市販されており、これを用いる場合は椀などに取り分けず、鍋から直接食べることもある。

 

鍋料理の歴史

 近代以前の日本の住居には、台所にある竈(かまど)とは別に、調理のほか照明や暖房を兼ねた囲炉裏が用意されることが多く、そこで煮炊きした料理を取り分けて食べる事は日常的に行われていた。江戸時代に入ると、囲炉裏の無い町屋や料理屋で、火鉢やコンロを使用した『小鍋仕立て』という少人数用の鍋が提供され、鍋から直箸で何人かがつつくという現代見られる鍋料理が発達した。その後も明治に入ってからの牛鍋の流行など鍋料理は一層の普及がみられた。調理の近代化が進み調理の熱源が木質からガスなどに転換するにつれて、加熱をしながら食べるという方式は飲食店での提供が主となったが、カセットコンロなどの発明と普及により、再び家庭でさかんに鍋料理が食べられるようになっている。

「肴瓮(なへ)」から「鍋」へ

なべは「肴瓮(なへ)」の意味だといわれている。肴はさかな、瓮は土焼きの「かめ」のこと。土焼きの器でものを煮たところから、「肴瓮」という言葉が生まれ、「堝」の字が当てられるようになる。時代が下ると、鉄器の普及によって金偏になり「鍋」という字が生まれた。『和名抄』(日本初の漢和辞典 930年頃)では土篇の「堝」、金篇の「鍋」が書き分けられている。囲炉裏端で、薪を焚きながらつるのついた鍋を煮炊きした時代は長く、鍋そのものが一つの世帯を意味していた。鍋前で火床、調味、煮具合などを司る主婦はその座を揺るぎないものとし、「鍋座」「鍋代(なべしろ)」「女座」などのことばが生まれた。いまの「鍋奉行」と同じ意味だ。

「鍋料理」が確立するまで

 囲炉裏端の鍋から、座敷に七輪や鍋を持ちだして食べるようになったのは、文化が爛熟した江戸時代後期。町家では、すすや煙がきらわれたことから台所と食事をする場が切り離され、火床は薪をたく囲炉裏から、木炭を用いるコンロへと変化。そして塩や味噌が主体だった調味料に醤油やみりんが加わり、鍋料理はもとより、日本料理そのものが確立していく。囲炉裏にかける大鍋に対して、食卓に持ちだす鍋料理を「小鍋立て」といい、「小鍋膳立て」の略で、これがいまにいう「鍋料理」というわれる。
 「小鍋立て」が出現した江戸時代は、「江戸の食い倒れ」ということばがあらわすように、庶民が食を楽しめるようになった時代で、それが鍋料理の発展に拍車をかけ、茶飯屋ではおでんのルーツ、田楽が煮込まれ、今のおでんの形に近くなったのもこの頃だ。また、湯どうふ店、あんこう鍋の店など現在も残る鍋料理屋が創業している。そして、鍋料理がいっそう盛んになった理由が、牛鍋(すきやき)の流行。日本においては仏教伝来以来、肉食が禁止されてきましたが、江戸幕府の長い鎖国政策に終止符が打たれて明治時代になると文明開化が叫ばれ、一転、富国強兵のために肉を食べることが奨励され。仮名垣魯文による『安愚楽鍋』(1871年)は当時の牛鍋ブームの情景を描き出している。庶民にとって一番身近な文明開化の象徴が牛鍋だったといわれる。こうして、囲炉裏の鍋からコンロを囲んでの団居(まどい)鍋が家庭料理として定着する。



鍋の種類

 日本の鍋料理に使用する鍋として、最もポピュラーなのは陶器製の土鍋である。土鍋は熱伝導性が低いため火がじっくりと通り、長時間の煮込みでも焦げ付いたりする危険性が低いために鍋料理に適しており、寄せ鍋をはじめとして、多くの鍋料理に対して用いられる。具材を煮込む前に焼く工程があるすき焼きなど、土鍋には向かない調理法がある場合は鉄、ステンレスなどの金属製の鍋(金属鍋)が使われる。もちろん、通常土鍋が使われる料理を金属鍋で代用することも可能。最近の電磁調理器の普及に伴い、それに対応した土鍋風ホーロー鍋なども販売されている。また、ジンギスカン鍋、フォンデュなど、それ専用に作られた独特の形状の鍋を使用する料理も多い。
 変わったところでは、主に日本料理において使われる「紙鍋」という技法が存在する。これは、耐水加工をした和紙を器の形にしてスープと具材を盛り、下から直火で炙って鍋にするもの。紙が中に入れた水(スープ)の沸点である摂氏100度以上に熱せられず、燃える温度に達しないためにこのような技法が可能。見た目の優美さ、和紙が具材のあくを吸うためあく取りが不要であることなどのメリットがあるほか、容器を使い捨てに出来ることから、大人数による宴会などでの卓上鍋として用いられることが多い。なお、紙鍋とほぼ同様の形状・用途のものにアルミニウム箔製の「箔鍋」がある。
 また、昆布を器にした「昆布鍋」というものもある。


常夜鍋


鍋料理の締め

いろいろな具材を煮込んでいるためにスープには出汁が凝縮された状態になっている。このスープを利用しての食べ方にもいろいろあるが、一般的には雑炊が多い。

締めによく使われる具材

うどん 、餃子 、飯+卵(雑炊)、素麺 、春雨 、中華麺(ラーメン)、餅

鍋奉行

鍋料理においては、とかく一家言ある人物が存在する。たとえば出汁の量、具材を入れる順序や位置、火加減など、非常に細かく指定して仕切る人はしばしば見受けられる。このような人物を「鍋奉行」と称する。時代劇でとかく権力を振るう役回りである「奉行」(町奉行や勘定奉行など)をもじり、また少々迷惑な存在であるという意味も含んだ呼称である。

21世紀への鍋料理

囲炉裏端で鍋を囲んだ食の原始風景は、いまも鍋料理をすると蘇る。湯気の向こうに家族や親しい友人の顔を見ながら一つ鍋をつつくのは、日本ならではの温かい情景といえるだろう。薪の囲炉裏から木炭のコンロ・七輪へと変わった火床は、さらにガス、電気、電磁調理器へと変化し、核家族化はますます進み、味の好みも洋風化するが、準備が簡単で煮えばなを食べられる鍋料理は、今後も家庭から消えることはないだろう。また、コンビニエンスストアのおでんの人気や、キムチ鍋ブームなどをみると、われわれが思いもよらない新しい鍋が生まれてくる可能性もある。






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