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脳の中の「点と線」〜神経回路とシナプスの謎に迫る研究最前線〜


脳科学とは

 脳科学者達は、次のような基本的な質問への答えを見つけようと試みている:脳の中に見られる多くの遺伝子及びたんぱく質の機能は何か?脳細胞は、どのようにしてお互いに合図しあうのか?脳はどのようにして成長し、我々が学んだ時には何が起こるのか?老化の影響を逆転し、脳への損傷を修復することができるか?人工知能の装置を作り出すのに、どのようにして我々の持つ脳の機能への理解を適用できるか?
 脳科学(brain science)は、ヒトを含む動物の脳と、それが生み出す機能について研究する学問分野である。神経科学の俗名であり、専門的な文献ではあまり使わない。特に「脳科学」及び脳科学者と呼ばれる物にはこれに当てはまらない疑似科学に類するものも多く含まれる。そもそもは、認知神経科学と呼ばれる分野の一般向けの呼称の仕方であったが、最近は脳と心を結びつけて議論する研究全般がこう呼ばれるようになった。

分子生物学

 脳細胞の中に見られる、様々な分子の構造、機能及び相互作用を分析することにより、科学者は、脳細胞の成長、機能及び消滅を支配する基本機構における、それらの役割を研究することができる。

遺伝学

 脳の発達の多くが遺伝子により決定される。脳科学者達は、異なる発達期間中に、どんな遺伝子が表現または活性化されるのか、そして遺伝子の変化が、どのように発達に影響し、あるいは疾病に導くのかを研究する。最近、いくつかの技術上の開発が遺伝学者に強力な道具を与えた。今では、選択的に一定の遺伝子をネズミから取り除く、もしくはネズミに挿入することが可能であり、それらの遺伝子によって符号化されたたんぱく質の機能を、科学者達が調べることができるようになった。

神経生理学

 脳細胞は、活動している時は、電気信号を発生させる。これらの電気信号、若しくは脳の代謝活性の副生成物を計測することにより、科学者達は神経細胞の機能、それらがどのように情報を処理するのか、そしてどのように相互に作用するのかについて、多くを学ぶことができる。

神経解剖学

 脳は、全体で、千数百億個の、様々な形・サイズの神経細胞から成っている。一つの神経細胞の物理的構造を分析することが、その機能、他のどんな神経細胞と交流するのか、そしてこれらの交流がどんな役割を果たすのかについて、多くの情報をもたらし得る。

コンピューター模擬実験

 脳科学者達は、脳の機能を模倣するコンピューターのプログラム及び装置を作成して、理論的な神経科学の研究を実施する。脳がどのように働くかの模型を構築することは、科学者達がその機能と特性を理解する手助けとなる。




前頭前野内側−行動戦術制御領域

高度な意志決定の仕組み解明に進展



 人間の行動の理解といった大きなテーマに続いていく、脳機能の解明。まだまだ秘密が多い分野である。研究が進めば、例えば脳機能障害を起こした人は脳のどの領域の行動がきちんと制御できていないかを突き止めて、解決策を導くことも可能となる。

 前頭葉は大脳を構成する一つの領域で、思考や判断、創造性などに関連する機能があることで知られている。ヒトの前頭葉の面積は広く、脳全体の約40%をも占める。その内部はいくつもの領域に分かれており、どのような機能を持つのか未解明な部分が多い。
 東北大学大学院医学系研究科生体システム生理学分野の虫明元教授と松坂義哉助教ら研究グループが発見した領域は、前頭前野内側領域と呼ばれる、人間で言えば額の部分。存在自体は知られていたが働きはよくわかっていなかった。今回この領域の細胞が、具体的な行動そのものを選択するのではなく、行動の選択の仕方を選択する時に活動していることを発見した。

 実験はサルを使って行われた。まず、条件1として左側に設置した緑色のランプが点灯すれば左のボタン、右側に設置した赤色のランプが点灯すれば右のボタンを押すようにサルを訓練した。この場合サルは、ランプが点灯したのと同じ方向のボタンを押せばよい。条件1だけのルールに従ってサルがボタンを押している時は、脳の前頭前野内側領域はまったく反応を示さなかった。
 そこで条件2を加える。条件2では、緑と赤のランプの左右を入れ替えた。この場合サルは右側で緑のランプが光ると左側のランプを押し、左側で赤いランプが光ると右側のランプを押さなければならない。条件1と2のどちらが提示されるかわからないので、サルは点灯したランプを見てどのボタンを押すべきか判断しなければならない。つまり緑のランプが点灯したら左のボタン、赤なら右のボタンを押すという目標を達成するために、提示された条件の下で、それまで身につけた経験的行動側から、光ったところを押すか光ってない側のボタンを押すかという複数の行動戦術をサル自らが判断して使い分けるというより高度な意思決定をすることになる。
 人間なら、買い物で商品を選ぶ場合、何を買うという具体的な行動選択以外に、価格や産地といった複数の条件を無意識のうちに好みに合うかどうか判断して購入するか否かの意思決定をする。それが無意識のうちにできるのは、脳が複数の行動選択の仕方をバランスよく保ち、必要に応じて選び出しているからだ。そのような場合に前頭前野内側領域の多くの細胞が活発に活動しているというわけだ。この領域が行動戦術を使い分ける時に活動を示す領域として細胞レベルで固定されたのは、世界で初めてのことだ。

 今回のような動物実験でサル自らが行動戦術をつくりあげているかどうかを見出すのは難しい。しかし今回そういう切り□で見てみると、条件1だけや条件2だけのように、単純なルールに基づいてランプを押している場合には細胞の活動が見られなかった。だが条件1と2を組み合わせた中で押すべきボタンを選ぶという高度な判断が求められる場合には前頭前野内側領域が活発に活動した。さらにこの課題では色のルール以外に、サルは自ら光るボタンを押すか光ってないボタンを押すかという行動戦術を自ら経験的に身に着けた。前頭前野内側領域は、行動戦術の選択に関わるのである。先ず、同じ前頭前野でも、外側領域はルールを認識して行動を起す場合に活動が活発化することが虫明教授らの研究で判明している。

  「ヒトもサルも、単一の前頭前野の領域が意思決定をするというイメージではなく、複数の領域がそれぞれの方針を立てていて、その都度どういう領域がどのように貢献したかによって行動内容が変わってくるのではないかと推測しています」と虫明教授は話す。
 例えば将棋では、駒の動きというルールのもとで、勝利という目的を導き出していくために先の手を読む。そういう場合は前頭前野の外側が活発に働くが、もしその時にその人の経験則が関わっていれば、前頭前野内側領域が重要な働きをしている可能性もある。つまり前頭前野の外側領域と内側領域が互いに協調して勝利への戦術が導きだされている可能性があるのだ。前頭葉には多くの領域があり、一つひとつの役割こそ解明されつつあるが、全体としてどのように協調されているのかはまだわかっていないのが現状だ。
 「実際の人間や動物の行動を捉えようとすると一つの司令塔があるという認識より脳全体の協調的な働きを理解する必要があります。さらに脳は身体を通じて協調的に環境とつながることで行動を決めていくのが重要なポイントです。いずれはそこに到通して、認知症の治療や高次脳機能障害のリハビリなどに役立てていければいいと思っています」(虫明教授)。
 脳機能の解明は人間の行動の理解といった大きなテーマに続いていく。人間の行動の理解が進めば、例えば脳機能障害を起した人は脳のどの領域の行動がきちんと制御できていないかを突き止めて、その領域の活動を活発にしたり抑えたりすることで生活に支障のないようにサポートできるだろう。虫明教授の目指す認知症などの治療へのアプローチも進むし、ヒューマンマシンインターフェースヘの応用の期待も高まる。新技術の開発や新たな産業も生み出されることだろう。人類最後のフロンティアと言われる脳機能の解明により、可能性は無限に広がっていく。





 脳は、人間が人間らしく生きるための根幹をなす「心」の基盤であり、旧来より人間の科学的興味・社会的興味を集めてきた。特に近年、「脳の可視化」を実現する各種計測・情報技術の発達の恩恵を受け飛躍的な進展を見せた脳科学研究は、「心」の働きを解明する最先端の科学として社会的にも一層強く認識され、21世紀は「脳の世紀」であると言われるまでに至っている。さらに、こうした脳科学の発展に伴って、我々人間の認知・行動・記憶・思考・情動・意志といった「心」の働きに関する知見が急速に蓄積されると共に、これらの知見を基盤にし、経済学・社会学・生理学・認知心理学等の様々な研究領域と融合した「応用脳科学研究」とその事業活用を推進する試みが、分野を問わず世界規模で活発化している。



応用脳科学研究の推進やその事業活用の5つの課題

専門性の課題

まず、応用脳科学研究やその事業活用を適切に推進するためには、脳科学に関する専門性を有する人材が必要だが、産業界にはこうした人材が不足しているのが現状。

多様性の課題

また脳科学が対象とする研究領域は多岐に亘るため、これらをカバーするのは容易ではない。さらに、応用脳科学研究とその事業活用には、単一の脳科学の研究領域だけではなく異分野の知識・技術との融合が求められるため、研究・事業化に携わる人材には多様な専門性が求められる。

先進性の課題

上記に加え、脳科学研究は、現在も日進月歩で進歩しているため、最新知見を適宜取り入れながら応用化を進めるためには、その動きに随時フォローする必要がある。

倫理性の課題

一方、ヒトの脳を扱うという性質上、その研究や事業化にあたっては倫理面・安全面の配慮も欠かせないが、一般的な企業においては脳科学研究に関する適切な倫理基準を有さないことが多く、このことが研究の障壁となっている。

事業性の課題

以上4つの課題が背景的要因となり、応用脳科学研究のアプローチや事業活用までの具体的プロセスが明確にならず、結果としてこれらの取り組みがビジネス上どのようなベネフィットをもたらすかが理解されにくい状況にある。





応用事例






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