コンピューターは人の心を熱くするか





デジタル&バイオ入門

 知識社会に移行する21世紀のリーディングテクノロジーの姿はどのようなものだろうか。コンピュータ、ネットワークなどの情報通信関連技術(IT)が少なくとも2020年ぐらいまでは、その市場規模において圧倒的首位を占めることは、各種調査結果の一致した見方だ。だが、ITは20世紀後半を彩った技術ではある。そこで、21世紀前半の特色的技術といえば、社会・生活インフラに関連した技術(環境、教育、医療・福祉、交通など)とバイオテクノロジー、ナノテクノロジーの時代とされ、その技術は個別に発展するのではなく、相互に密接に関連し合って巨大な市場を形成するとみられている。
 しかしながら、情報通信関連技術(IT)をデジタル技術とその根底からとらえ直すと、20世紀後半の技術と定義されるだけでなく、今世紀もデジタル技術あるいは、このホームページで掲載し続けている『デジタル革命』はなお大きな影響を与え、変容していくことをある程度正確に見通せる視点をもつことができる。従来、ITまたはバイオのみに関する文献、書籍は多いが、ITのバイオヘの応用、逆にバイオのITへの応用と、その両者の不可分性を強調して解説できるものと確信している。それがこのファイルに"デジタル&バイオ"とネーミングしたゆえんである。そして、この両者の接点として、医療、創薬、人間工学、ヒューマンインタフェースなど社会・生活インフラに焦点を当てている。米国のMITなどでも、ITとバイオの融合を意識して、工学部の授業でバイオ関連の講座を多く設けているのが現状だ。
 20世紀は、科学・技術の躍進の時代であり、人間のエゴによるその暴走の時代でもあったが、20世紀は「一般相対性理論」と「量子力学」という、二つの画期的な科学の「革命」の幕明けでもある。相対性理論は質量がエネルギーに変換され「原子カエネルギー」の開放につながった。また量子力学の考えは、20世紀後半のトランジスタ、さらにマイクロプロセッサの開発へつながり、フォン・ノイマン型の現在のコンピュータのハードウェアを実現しデジタル革命の基礎となった。一方、1953年ワトソンとクリック両博士の共同でDNAの「二重らせん構造」が発見されている。
 それから約半世紀後の2000年6月、米国のセレラ・ジェノミクス社で、世界最高遠の3700型シーケンサを約300台稼働させて「ヒトゲノム」の解読に成功。クリントン大統領(当時)は、ホワイトハウスでの会見で「人類はもっとも素晴らしい地図を手に入れた」と特別声明を出して絶賛したことは記憶に新しい.。このように、21世紀は,コンピュータ(デジタルあるいはIT)とゲノム・脳(バイオ)の時代といわれるゆえんでもある。コンピュータとDNAに関しては、20世紀に相当な進歩が達成されたが、脳(心、意識の問題も含む)に関しては、いまだ画期的な進歩はないとされる。たとえば「心、意識の問題」を解明する一つの方向として、相対性理論と量子力学をつなぐ「統一場」の理論が、オックスフォード大学のペンローズ教授らにより研究されたが、そうじて20世紀の1百年間は挑戦・失敗の連続とされ、21世紀は"一度原点に戻ってみよう"、すなわち「バイオミミックリー」といった考えが米国で話題をよんでいる。ミミックリーとは"まねる"という意味で、バイオをまねよう、自然に学ぼうという考え方である。米国のジャニン・ベニュスらが提言している考えで、自然界はいかにサスティナブル(持続可能)に発展しているか、昆虫や鳥類はいかに効率よく飛行しているか、DNAはいかに効率よく塩基間の特異的な親和性を発揮しているかなどを見習って、地球のサスティナブルな発展を、考えていこうというわけである。これは20世紀のGDP成長、経済成長第一主義の反省から生まれた考えである。現在、地球の人口は年に8 000 万人程度増加している. これをサスティナブルに維持するには、現在の効率第一主義の科学・技術文明からの脱皮の必然性に広く意識されてきた証でもある。
 21世紀にクローズアップされるコンピュータ(デジタルあるいはIT)とゲノム・脳(バイオ)は、情報という見地から見ると、実は一つのものとして解明できる。現在のコンピュータは、20世紀の半ばに開発されたフォン・ノイマン型である。これは「逐次処理」型であり、情報を直列に片端から処理していく。一方DNAはワトソンークリックの相補性を利用して、効率よくかつ並列に情報を処理している。
 また、生物のすべての細胞は、それぞれのもつ特性、能力(ケイパビリティ)を発揮しあって、お互いにいわば"助け合っで活動する。アジアで初めてノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・セン教授は、現在の世界を"自己の利益、欲望(エゴ)の最大化によって動機づけられている"とし、人間各人がもっている適性、能力の最大化を目標とする,新しい21世紀の世界像を提言している。この考えは、生物の細胞が太古から行っている機能で、すでに実現されている。
 このように21世紀の諸課題を考えるとき、"バイオに学ぶ"考え方の重要性があらためて実感される。さらに、1999年2月に発売開始された、iモードの爆発的な普及に関して考えてみよう。動物はすべて動く(歩く)わけであるから、移動しながらインターネットにアクセスしたいニーズは、これもまた自然界に学んだといえよう。また、現在ネットワーク界で進んでいる"いつでもどこでも"、すなわちユビキタスといった考えも自然界により近い環境といえよう。パソコンを今日の隆盛に導いたアイコンとマルチウィンドウの考え方も、ごく自然に人間が行ってきた行為をコンピュータに付加したものと考えられる。価値観が多様化し、世界一の高齢社会となる日本においては、効率第一主義に代わっでより自然に近いもの"、"自然に学ぶ"考え方の重要性が,今後ますます増加するものと思われる。
 このファイルでは、第1章でまずデジタル&バイオの基礎として、デジタル技術(IT)の基礎、バイオの基礎、デジタル&バイオについて概説し。第2章ではデジタル技術(IT)のバイオ、医療分野への応用、第3章では第2章とは逆にバイオのデジタル技術(IT)への応用について、デジタル技術(IT)とバイオの接点というと、生命情報工学、バイオインフォマティクスを念頭に、この両者の関係の可能性をより広くサーチした.デジタル技術(IT)バイオに関する基本的な知識、研究成果,技術動向,製品開発、政策取組みに関する最新情報を、系統だてて編集した。
 なお、このファイルの執筆・編集にあたっては日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科 杉野昇教授編集の『IT&バイオ入門』(オーム社)をベースに見直し参考とした。






IT&バイオ入門
























アマルティア・セン



































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