図解|マルチメディア技術辞典




総 論

マルチメディア出現の背景と将来展望

1.コンピュータ・通信のパーソナルユース

 1993年2月,就任間もないクリントン大統領とゴア副大統領は,カリフォルニア州シリコンバレーにおいて,「アメリカの経済成長のためのテクノロジーゴ と題する新政策を発表した。この新政策で示された「情報スーパーハイウェイ構想」こそ,マルチメディアフィーバーの火つけ役になったものである。
 ゴア副大統領は,この火種はNTTの「21世紀のサービスビジョン・新高度情報通信サービスの実現・VI&P」にあったという。Vはビジュアル,Iはインテリジェント,Pはパーソナルのイニシャルであり,情報のビジュアル化,ネットワークのインテリジェント化,伝達システムのパーソナル化を示したものである。
 ゴア副大統領はNTTから未来のビジョンを学んだ。しかしそのビジョンを具体化するために,どのような実現策があるかを検討し,マルチメディア社会を実現 する道があることを明らかにしたのである。
 既に,テレビのハイビジョン化,電気通信のインテリジェント化,コンピュータ利用のパーソナル化などによって,情報環境は大きく変わっている。 NTTの未来ビジョンを超えて,情報環境は,ビジュアル化,インテリジェント化,パーソナル化といった方向に進化し,個人を嘔位とした情報の依存度はますます高ま りつつある。
 私たちが情報に依存するとき,その表現手段は,音声,文字,データ,画像,映像のいずれか,あるいは複合を選択する。だが,選択は技術的に制限されていて,表現手段のすべてを一元的に融合して用いることはなかった。しかし,発達し続けてきたディジタル技術を広く応用することと,また光通信ケーブル技術を中心とした情報通信技術を結合することによって,ビジュアル,インテリジェント,パーソナルの三つの目的を実現し,マルチメディアの世界を出現させることが可能となったのである。
 ちなみにマルチメディアとは,「文字,音声,画像など複数のメディアをディジタル技術により継ぎ目なく(シームレス)統合的かつ対話的(インタラクティブ)に取り扱うメディア」である

2.情報表現の映像化の普及

 マルチメディアの発展は,三つの道をたどりながら,やがて一つに融合されていくと予想される。第1はマルチメディアネットワーキング,第2はマルチメディアコンピューティング,第3はこれら二つを融合したマルチメディアシステムである。
 いずれの段階においても,情報の表現形式において中心となるのは映像であり,表現装置として主に用いられるのはディスプレイであろう。このディスプレイ を中心としたハードウェアを新しいオーディオビジュアル(AV)機器としてとらえ"ネオAV"と名づけたのは,肋日本電子機械工業会である(1)。 マルチメディアの情報表現が多様な方式となることは当然予想されるが,普及という面でとらえてみると,前述のネオAVが中心になるという見方ができる。そこで以下,ネオAVを中心に述べる。
 まず機器の要件であるが,高度なディジタル処理機能付きディスプレイと大容量・固体メモリが核となる。システムコンセプトは,シングルメディアマルチソー スおよびマルチユースとなっている。
 追加機能はユニットで対応し,インテリジェント化は,コンピュータのCPU,0Sがブラックボックスとして内蔵され,ユーザインタフェースなどソフトウェアで,ハードのインテリジェント化をサポートする。
 インタラクティブ化は,B-ISDN網等を駆使した多様なサービスの登場と相まった双方向オプションのダ受か,新たなユーザベネフィットになるとしている
 ネオAVは用途によって次の四つの形態に分けられている。@ファミリーユースのAVを中心とする「ネオAVステーション」,AパーソナルAVにパソコン機能を付加したfパーソナルネオAV」,BボータブルAVに携帯情報端末機能を加えた「カーネオAV」,CカーAVにインタラクティブカーナビゲーション機能を加えた「カーネオAV」,さらに,これらの形態に個人の必要とするユニットを追加することによって,種々の機能が付加される。
 ソフトサービス面は,パッケージ系、放送系,通信・伝送系に分け,それぞれの普及の予測を次のように示している。
(1)パッケージ系
 @パッケージメディア,ブランク再録メディアは光ディスクが主流となる。
 Aディジタル化技術,圧縮技術の発展によって,コンパクト化,高密度大容は化か一段と進展する。
 B従来からのAVソフトに加え、バーチャルリアリティを含むゲームソフト,カーナビソフト分野が拡大する。
(2)放送系
 @テレビは16:9のワイド化か定着し,ディジタル化,多チャンネル化,多重化等により放送サービスはいっそう多様化,高品位化する。
 A一般的総合放送以外に,スポーツ,音楽等特定専門放送の充実,CATVやB-ISDNによるインタラクティブ放送の開始等,有料放送の比率が増   加する。
 Bインタラクティブ放送は,フルインタラクティブ(呼出しや,参加型)等,レベルの異なるサービスが出現する。
 (3)通信・伝送系
 @音楽、映画,カラオケ等のオンデマンドサービスが台頭し,その利便性から現在のレンタル需要と代替しつつ,新しい市場を創出する。
 A宅配困難化の背景を受け,かなりの世帯で新聞の伝送購読をするようになる。
 B教育,学習,稽古事分野においても、インタラクティブ性を生かしたカリキュラムサービスが普及する。
 なお,ネオAVの市場規模の予測は,1992年の3.8兆円から2015年には17、7兆円規模へ拡大すると示されている。特にソフト市場の伸長は,約6〜7ィaであると想定されている。

3.インタラクティブ性の活用

 2..においてインタラクティブ性を活用する予想例を示しておいたが,ここでは国内で最初の光ファイバによるビデオオンデマンド(video on Demand :VOD)の実験によって,インタラクティブ性(対話的機能)の活用について述べる。
 この実験は,抑新世代通信網利用高度化協会が中心になり,平成5年より3年間を予定し,京都府の関西文化学術研究都市において実施されている。大阪・京都・奈良を学研都市と結んだB-ISDNの実用実験でもある。実験センター内には映像送出機器,ディジタル交換機,光交換装置,ハイビジョンスタジオ,さらに端末機器のデモンストレーションができる展示施設が設置されている、
 一般家庭や民間企業,公共機関等を2、4ギガヘルツ(GHz)の先ファイバケーブルで結び,この回線を使ってVODやCATV,テレビ電話/会議など,放送と通信を融合させたサービスを行う。モニタとなる加入者(約300)hはハイビジョンやテレビ電話などの端末が3年間無料で提供されている。
 伝送には波長多重方式が採用される。波長多重方式とは,通信系サービス(N-ISDN)と放送系サービス(アナログ派)をそれぞれ1、3μmと1.55μmの異なる2波長で同時に伝送する方法である。
 動画VOD,CATVには放送回線,静止画VOD,テレビ電話/会議や動画VODの加入者からのリクエストには通信系回線が用いられる。30チャンネルのVODチャンネルを使って行われるサービスは,タイムシフトサービス(ニアVOD)とVODサービスである。
 静止画VODでは電子カタログやテレビショッピング等が行われる。加入者の端末から送られるリクエスト信号は,コンピュータベースの画像蓄積装置に送られ,検索などを行った後、再び必要な画像を送り返すVODはマルチメディアの一形態であるが,さまざまな可能性が秘められている。VODによるインタラ クティブの世界を開いていくためには,利用する人たちの声を聞きさまざまな試行を繰り返すことになると思われる。

4..市場創出の具体策と必要技術

 郵政省の報告書(2)によれば,光ファイバ網の整備により2010年には新たに56兆円以上の市場が剔出され,従来からの関連市場を加えたマルチメディア市場は123兆円になると予測している。
 また雇用については,2010年には240万人の雇用の創出が見込まれるが,これを実現するためには,次の具体策(仮称,情報通信基盤整備プログラム)が必要であるとしている。
 (1)光ファイバ網を中心とする新世代の情報通信
基盤に関し,ネットワークのあり方,通信と放送の融合を見越した整備主体、有線系・無線系インフラの役割分担。
 (2)遠隔教育,遠隔医療等の光ファイバ網を利用した公的部門における先進的アプリケーションの開発,民間部門における関連技術の開発,映像ソフトの振興等に関する支援措置。
 (3)光ファイバ網を利用した流通,教育,医療等の分野におけるニュービジネスの振興を目的とした,関連諸法制の見直しを含む総合的な方策。マルチメディアはまた,21世紀の産業の核として,また国際化の推進の核としても位置づけられている。これを踏まえて構築されるグローバルインフォメーションインフラストラクチャ(Gloval lnformation lnfrastructure : GII)構想は,光ファイバ網を結合した世界各国を結ぶ地球的規模のネットワークである。グローバルインフォメーションハイウェイともいう。
 この構想はゴア米川大統領が1944年に提唱したものであるが,この構想を実現するためには,各国がナショナルインフォメーションインフラストラクチャ(National lnformation lnfrastrudure : NII)を実現しなければならない。
 アメリカでは既にNII構想に取り組んでいるが,我が国もこれに歩調を合わせ、NII構想に取り組んでいる。と同時に,韓国とも協力して,アジア地域のネッ トワーク化(アジアインフォメーションフラストラクチャ構想:AII構想)を提唱している。
 一方,情報通信基盤とその利用技術の開発は,車の両輪であるとして,将来のマルチメディア情報通信技術の展望を行ったのは,郵政省の電気通信技術審議会である。この展望において,必要技術の主なものは次のように示されている。
 @ネットワーク技術
 A放送技術
 Bディジタル化技術
 C画像処理技術
 Dヒューマンインタフェース技術
 Eコンピュータ技術
 これらの技術開発には、5..に示すような技術的条件と技術的課題を解決しなければならない。

5.課題の克服と新市場の剔出

 本格的なマルチメディア時代に求められる技術的条件は,次のように不される。
 @標準と拡張性の実現
 A容易な操作性による利用の促進
 Bマルチメディア言語の開発
 Cプラットフォームのオープン化
 Dマルチメディアソフトの基盤を提供するOSの開発
 @は最も基本的なことで,標準と拡張性なしにマルチメディアの発展はあり得ない。Aに示された操作を容易にするための技術開発が,多様な利用目的と利用形態を実現することはいうまでもない。Bはマルチメディアのオブジェクトを具体化する言語である。この言語開発が急がれていることはいうまでもない。Cはどのようなプラットフォームにも対応するオープン性の技術である。Dの成果に対しては,あらゆる分野か強い関心をもっている。
 次に,マルチメディアを取り巻く技術開発を列記すると,次のようになる。
 @MPUの高速化
 ACD-ROMの低廉化と高速化
 B画像圧縮技術
 C使いやすいオーサリングソフト等の制作ツールの普及
 D ビデオボード,サウンドボード等パソコン用付属機器の充実これらの中で,特に映像関連技術の進化に必要とされるものを挙げると,次のようになる。
 @3次元コンピュータグラフィックスのソフト
 Aグラフィックスワークステーションの普及
 Bバーチャルリアリティ関連技術の進歩
 これらの技術的条件や技術的課題が解決するとき,マルチメディアによる情報通信は,心と心を通い合わせる"通心"の世界を切り開く端緒となるのではあるまいか。
 コンピュータの利用は,コンピュータサポーテッドコラボレーションワーク(CSCW)の方向に進みつつある。このCSCWとバーチャルリアリティ(VR)、さらにB-ISDNが加わって創り出すサイバスペースという新しい情報通信空間は,マルチメディアがL」指す真の人間交流を実現する空間を創造し,これが新巾 場の剔出につながっていくと考えられるのである。



脚注及びリンク






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