水環境水と工学特集|水の環境負荷削減




特集|水の環境負荷削減

 昨今、日本で「水」に対する注目度が高まっている。製品のライフサイクルにおける水の消費量を数値化するウォーターフットプリントの理論が広まり始め、「省水」が企業の課題になりつつある。また、環境省は今年度、来年度と水質汚濁防止法を改正して規制を強め、さらに新しい排水管理法の研究も進めている。一方で、地方自治体が長年培った水道技術を活かし、海外進出を加速させている。これは、世界的な人□増加と座業化による水需要の高まりとそれに伴う水不足、環境対策としての水資源保全が混然一体となって進行しているのが理由だ。もはや「水」は企業にとっては無視できない新たなトレンド。「水」の価値が見直される時がきた。




水の見える化するWFP

 

 近年、環境問題に敏感なグローバル企業が「商品の原料調達、生産から消費、廃棄までに使用される水の量」を算出するウォーターフットプリントを取り入れ、対策を始めている。C02削減と同様、水使用量の削減は今後、世界的なトレンドになりそうな勢いだ。

 ここ数年、地球温暖化対策によるC02削減の取り組みは特に先進国では常識になってきた。それに伴って出てきたのが、「C02だけで環境への影響を測って良いのか」という議論だ。確かにC02の削減は重要だが、C02だけが環境に影響を与えているわけではない。この議論の進行と同時に、急激に「水」への関心が高まってきた。なぜ水なのか。
 それは、様々な調査によるデータから水に関わる生命の問題と、水は無限の資源ではないという認識が世界的に共有れてきたからだ。
 世界保健機構(WHO)と国連児童基金(UNICEF)が2010年に出した推計では、上水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は08年に約8傍8400万人おり、約26傍人が下水道などの基本的な衛生施設を利用できない状況にある。一方で、人口の増加や工業の発展、生活様式の変化によって世界の水需要量は、2000年時点で約4000km3/年から、50年には約3割増の約5200km3/年まで増加すると予想され、国連開発計画(UNDP)によれば、水不足に直面する人口が10傍人規模に通すると見込まれているのだ。この危機的状況から「省水」(水使用量の削減)の意識が生まれ、ライフサイクルを通じてC02がどれくらい発生するかを算定するカーボンフットプリント(CFP)と似た「ウォーターフットプリント(WFP)」という概念が生まれた。 WFPはオランダのArjen Hoekstra教授らによって開発された理論で、「商品の原料調達、生産から消費、廃棄までに使用される水の量を算出する方法」だ。例えば「1キロの牛肉のために16トンの水が必要」という形で表す。

グローバル企業で導入が進むWFP

現在、WFPはHoekstra教授が08年に設立したNPO・ウォーターフットプリントネットワークのガイドラインに沿って算出されており、ISOによる国際規格化は議論の最中だが、特に環境問題に積極的に取り組む欧州ではCFPと同様に企業がWFPを導入し、数値を公表すると同時に水使用量の削減を図る動きが広まっている。東京都市大学 環境情報学部准教授の伊坪徳宏氏はこの動きをどう見ているのだろうか。伊坪氏は10年に日本で初めてWFPの水消費原単位のデータベース化に成功し、昨年11月には目されているが、C02排出量だけでなく複数の環境指標を評価する必要があると考えた。まず、2008年度から生産などの活動が人間の健康や生物多様性などに与える被害量を被害金額として算出することで、複数の環境影響を単一指標として統合化する日本版被害算定型環境影響評価のLIME手法の検証を開始。 10年より導入し、C02をはじめとする複数の環境指標を統合的に評価してきた。
 また、WFPについて、「中東では水を巡る紛争も起きており、水需要の逼迫は世界的な課題となっている。日本ではまだ表面化していないが、水の使用量削減は企業にとっていまから取り組んでいく必要があるという考えから、先駆的に始めることにした」と説明する。




自社包装材のブランドカを向上

製品利用による水削減量を計算

 凸版印刷は、昨年12月、国内で初めて、パッケージ関連分野でウォーターフットプリントを活用したLCA評価支援サービスを本格的に開始した。本サービスにより、水使用量削減を切り口に、顧客に対して自社包装材を利用した付加価値のある製品づくりの提案を目指す。

 凸版印刷が開始した「ウオーターフットプリント(WFP)を活用したLCA評価支援サービス」は、製品がライフサイクル全体で消費する水使用量を算出し、製品の水使用量を「見える化」するサービスだ。 WFPの算定は、東京都市大学の伊坪徳宏准教授の協力を得て実現した。
 同社は、環境負荷低減への取り組みだけでなく、水資源をテーマとした新たなマーケティング戦略として本サービスに着手した。例えば、ある製品のWFPを算出することで、他の製品に比べて削減できる水使用量をアピールできれば、自然環境に配慮した商品として差別化することができる。同社のパッケージ(包装材)を使用して製品展開を考える顧客に対してサービスを提供し、自社製品の拡販につなげていくのが狙いだ。

環境指標としで水"に着目

  凸版印刷生活環境事業本部・環境ビジネスチーム課長の中川善博氏は、「当社では、水にフォーカスし、C0も含めて環境負荷を『見える化』する手法を検討してきた。同時にその手法による自社包装材の開発・拡販への活用についても詰めてきた」と語る。
 同社では、製品を生産することによる環境負荷を低減するため、製品の原材料調達から生産、流通、使用、廃棄・リサイクルまで、製品のライフサイクル全 体にわたって、環境負荷を定量的に評価するLCAに取り組んできた。環境への負荷を表す指標としては、C0排出量を表示するカーボンフットプリントが注目されているが、C0排出量だけでなく複数の環境指標を評価する必要があると考えた。まず、2008年度から生産などの活動が人間の健康や生物多様性などに与える被害量を被害金額として算出することで、複数の環境影響を単一指標として統合化する日本版被害算定型環境影響評価のLIME手法の検証を開始。 10年より導入し、C0をはじめとする複数の環境指標を統合的に評価してきた。
 また、WFPについて、「中東では水を巡る紛争も起きており、水需要の逼迫は世界的な課題となっている。日本ではまだ表面化していないが、水の使用量削減は企業にとっていまから取り組んでいく必要があるという考えから、先駆的に始めることにした」と中川氏は説明する。W下Pに着目する伊坪准教授と交流があり、早くから情報を得ていたこともその端緒となった。

製品を使用するだけで水を96%削減

グリルを使わず、電子レンジで魚を焼くことができる小林製薬のレンジ用調理商品に凸版印刷の電子レンジ用発熱シート「サセプター」が採用されている。この発熱シートは、PET樹脂の表面にアルミを蒸着させた包装材で、電子レンジで加熱すると、食品を焼く、焦がす、カリカリにするなどの処理を行うことができる。高齢化をはじめ、個食化、内食化に伴う電子レンジ需要の高まりから、さまざまな用途へ展開されている。
 同社は伊坪准教授と連携し、小林製薬のレンジ用調理商品のWFPを算出した。魚一匹あたりの水消費量は、一般的なグリルを使用する場合が約4.77Lであったのに対し、本製品を使用した場合は、調理後の洗浄が不要となるため、0.17Lであった。下水を希釈するための水の量は含まなければ、本製品を使用するだけで水の使用量を約96%削減できることになる。また、C02排出量を算出したところ、一般的なグリルによる調理の場合は105gであるのに対し、本製品の場合は、使用後の廃棄を含めない場合では69.0gで、約35%削減できることがわかった。
 同社の発熱シートを使用した本製品を使うことで、火を使わず、高齢者も安心して手軽に焼き魚を食べられるだけでなく、水の使用量が少なくなり、家計にも環境にも優しいという付加価値が生み出された。この付加価値の創出を体系化したものが、今回同社が始める「WFPを活用したLCA評価支援サービス」だ。本サービスでは、発熱シートやレトルト食品用パッケージなど複数の包装材でLCA評価を行い、顧客に提供するとともに、それらの包装材を採用した顧客の製品のLCA評価を支援する。顧客企業と一緒に水資源についての消費者への啓発も含めたマーケティングについても考えていきたいという。まずは、グローバルに展開している企業などを中心に、100件程度本サービスを提供するのが目標だ。本サービスヘの企業の関心も高く、「どういう内容なのか」と説明を求められるなど、問い合わせも多く寄せられているという。

国際規格化も視野に

 WFPについては、国際規格化に向けての議論も進められているが、「待ちの姿勢ではなく、参加をして意見を述べていきたい。電子レンジ調理は水資源に有効であることもPRしていく予定」と凸版印刷生活環境事業本部・環境ビジネスチーム部長 中井裕太氏は語る。 国際規格化の流れを受け、経済産業省は09年10月にXVFP国内委員会を設置。同委員会に参画するネスレは、コーヒー製品に1杯あたりのカーボンフットプリントともに、WFPを表示する取り組みを行っている。また、昨年12月に行われたエコプロダクツ展では、凸版印刷をはじめ、資生堂、東芝、湖油屋などが参画するウォーターフットプリント実践塾(エコ食品健究会主催)が、ライフサイクルにおける水の消費量と削減努力についての展示を行った。まだ、緒についたばかりとはいえ、大手企業によるVVFPへの対応は確実に広がってきており、世界的に見ても水消費量削減の対応は看過できないものになり始めている。今後、企業にとって水の取り扱いはC02に勝るとも劣らない課題になっていくだろう。 




加速する自治体の海外水ビジネス参入

鍵を握るODAからの脱却

 2025年には市場が87兆円に達するという水ビジネス。2010年以降、日本各地の自治体も海外、特にアセアン諸国で参入を図っている。しかし、今のところJICA主導の案件が多く、まだまだ実際のビジネスには結びついていないのが現状だ。

 ここ1、2年、日本各地の自治体が国内で培った高度な水処理技術を活かし、民間企業と提携して水道事業を海外で展開しようとする動きが目立つ。その内容を見ると、国際貢献色の強いものからビジネスとして収益化を狙うものまで様々だが、2025年には87兆円にも道するという2年前に経済産業省が試算した海外水ビジネスの巨大市場を意識しているのはどこも同じだろう。成長戦略としてインフラ輸出を掲げる政府の後押しを受け、例えば東京都と横浜市、名古屋市は出資する第3セクターをベースに、大阪市や北九州市などは自治体が自らアジアを中心に営業攻勢をかけている。
 自治体が海外での水事業に進出するきっかけとなったのは、2010年5月、総務省の渡辺周総副大臣(当時)の主導で勉強会が開かれ、政府として自治体の海外での水ビジネス参入について指針を出したことによる。 「議会、地域住民の十分な理解を得ることができれば、地方自治体も外国で事業をする特別目的会社(SPC)に出資することを目的として起債しても良いということ、地方自治体の職員が海外事業をするSPCで働く場合、退職派遣という形で、なおかつそのSPCの主業務 が国内向けであれば、職員の業務が海外に聞することであっても構わないという趣旨のことが記述として明確に盛り込まれたことによって門戸が聞かれました」(経済産業省水ビジネス・国際インフラシステム推進室室長三橋敏宏氏)。

現時点ではJICA案件が大半

 この展開には伏線がある。日本の民間企業が今後拡大を見込まれる水市場に参入しようとしても、水事業の運営、管理実績がないため、入札審査にすら 遣らない。民間企業がスタートラインに立つためには、海外の会社を買収するか、水道を維持管理する技術を持つ自治体と組むかの二者択一で、インフラ輸出を促進する国は自治体と連携する道を開いたのだ。地方自治体の参入を認める指針が出されてから2ヵ月後の7月には、横浜市が第3セクターの「横浜ウオーター」を設立し、8月には東京が国際派遣ミッション団をマレーシアに派連。同じく8月、北九州市では海外水ビジネス推進協議会が発足し、11月には神戸市が水ビジネス参入のために神鋼環境ソリューションと提携するなど、政府のお墨付きを得た自治体は海外展開を見越して続々と動き始めた。
 しかし、水ビジネス業界の障壁は決して低くない。各国で1億大規模の給水を担い水メジャーと称されるフランスのヴェオリア社、スエズ社を筆頭に海外企業がシェアを奪い合っている市場で、他国での事業経験のない日本の自治体や提携する企業が望むような大型案件を獲得するのは至難の業だ。結果として、自治体が受注しているのはこれまで長年に渡り日本が支援してきたアセアン諸国で、従来と同様にJICA主導のODAが絡む案件がほとんどというのが現状だ。例えば、東京都がマレーシア、大阪市がベトナムのホーチミン市、北九州市がカンボジア、神戸市がベトナム・キエンザン省で手掛ける案件などはJICAがほぼ資金を出している。昨年12月、JICAの支援事業でカンボジアと縁が深い北九州市が技術コンサルタントとしてカンボジア主要9都市の水道計画に関わることが決まり、200億から300億円と言われるその後の本格的な事業に参入する可能性を得たように、JICA事業は大規模案件受注のきっかけ作りにはなり得るが、三橋氏は、この援助ありきの流れを変えたいという。 「アセアン諸国ではほとんどの場合、一定の援助も加えた上で民間も投資する事業を期待されています。しかし、官民連携のPPP事業(パブリックプライベートパートナーシップ)として提携する企業が収益を挙げることを認める一方、日本がどれだけ援助をするかということをセットで議論することになる。また、日本政府がビジネスを応援するというと、それを支えるODAを期待する企業もありますが、日本は決して財政に余裕はないので、お金がある国、例えば中国、インド、産油国などでしっかりとビジネスをして収益を挙げることを考えていくことがとても重要です。途上国を対象とした事業を大切にしながらも、お金のある国で事業をして収益を国内に還元するというアプローチを基本的な考えとして常に持っていたいと思っています」

今後を占う横浜・日揮連合

 現在、自治体で三橋氏の言うビジネスの出発点に立っているのが横浜市だ。横浜市は、同市に本社を置く生産設備大手の日揮と提携じ横浜コンソーシア ム"として、60万人規模の人口を持つサウジアラビアの中堅都市ブライダとウナイザの水道事業でコンサルティング業務を開始する足がかりを得た。この案件は水道事業の民営化を進めるサウジアラビア政府が大都市を中心に外資の水道事業会社とコントラクトマネジメント契約を結ぶなかで、昨年9月に営業をかけた日本政府と前述の2都市に関する覚書を交わし、大臣間のやりとりによって横浜コンソーシアムが業務を受けることが実現した。この契約には日本からの援助が含まれておらず、JICA経由の事業とは一線を画していると言える。また、本格的な設備を建設し運営する際にサウジアラビア水道公社と一緒に何をどう使うかを選定する立場にある上、純粋なビジネスとしての実績を得ることでサウジアラビアと同じ問題を抱える他のアラブ諸国での受注に繋がる可能性があり、今後のベンチマークになる事業と言える。
 現在、海外での水事業で日本が得ている収入は約1800億円。経済産業省はこれを2025年までに10倍の1.8兆円にするという目標を立てている。そのためには漏水率などで世界トップクラスの技術を誇る地方自治体の存在は不可欠で、今後ますます自治体の海外進出が加速するだろう。その過程でいかに援助からビジネスに転換できるかが問われる。





"国際貢献ビジネズに邁進する東京

世界屈指の技術力で海外進出

 海外での水道事業を「国際貢献ビジネス」と位置づける東京都は、第3セクターの東京水道サービスを活用し、民間企業と提携して積極的に海外進出を図っている。日本で唯一の1千万人規模の上水道を管理・運営する技術力が世界でどう評価されるのか。

 水道事業のノウハウを持つ地方自治体が民間企業と組んで、海外で水ビジネスに参入する。 2010年、政府がこのパブリックプライベートパートナーシップ(PPP)事業を認める方針を出した大きな理由の1つは、水事業の経験がなく、25年には87兆円にも拡大すると見られる水ビジネスの市場に参入するのが難しい日本の民間企業をサポートするためだ。これは国の外貨収入を増やすと同時に、日本の優れた水道技術を輸出し、国連ミレニアム開発目標(MDGs)が掲げた「安全な飲料水及び基本的な衛生施設を継続的に利用できない人の割合を15年までに半減する」という目標に貢献するという目的もある。
 この流れの中で、日々1300万人の都民に給水し、漏水率3%、水道料金徴収率99.9%と世界屈指の規模と技術を誇り、これまで年間数百人、計100カ国 を超える研修生を受け入れてきた東京都は、水事業への参入を「国際貢献ビジネス」と位置づけ、第3セクターの東京水道サービスを活用しての海外進出に積極的な姿勢を見せている。 10年1月に公表した「東京水道経営プラン2010」には水道事業での「国際貢献」を明記し、同年8月には都から猪瀬副知事、水道局長ほか7名、東京水道サービスから取締役副社長ほか計3名を東京水道国際展開ミッション団としてマレーシアに派遣。上下水道一体の料金徴収や環境にも配慮した水運用などの強みをアピールし、営業をかけた。さらに同年中にインド、インドネシア、ベトナム、モルディス本年1月にはバングラディッシュを訪問し、12年度も3、4 カ国の視察を予定している。この視察は、水ビジネスの本格展開への足がかりだ。
 「今後、どう海外展開していくか各国のニーズを把握することが必要なので、企業などからいろいろヒアリングをするとともにミッション団を派遣してビジネスモデルを作っているところです。最初はコンサルティングをやり、順を追って施設管理から、プラント建設、維持管理まで手がけるイメージですね」(東京都水道局経営改革推進担当課長市村敏正氏)

注目される1千万人規模の運営力

 この官民一体のセールスの成果として、昨年10月には猪瀬副知事がベトナムのハノイで東京水道サービス、日本の水関連企業のメタウォーター、現地の水道公社などが組んで浄水場を建設・運営管理するプランを公表した。このプロジェクトは、ハノイ市郊外のドン川を水源とする浄水場を建設し、20年以上の維持管理も担うというもので、15万トンずつの2段階に分けて20年までに30万トンの供給を行う計画だ。現在、JICAの支援制度を利用して事前調査をしている段階で、採算面、事業の継続性などを含めて合意に達すれば都が手がける最初の本格的な事業になる。ここまでこぎ着けた理由について、東京の技術力が評価された結果と見る。
 「アジアの首都クラスの都市になると、人口が1千万人前後の都市が多くなっていますが、日本でL千万大規模の水道事業をやっているのは東京都だけです。さらに河川の水質に合わせていろいろな方法で浄水処理をしているので、どのような水質にも対応できます。危機管理・安定給水の点では、浄水場をはじめ129の施設があり、総合的にコントロールしなければならないので、そういった技術が海外から期待されているところだと思います」 アジア開発銀行によると、ベトナムの大都市では上水供給システムのない世帯比率が全体の20%に及び、既存の水道設備も漏水率が30〜40%に道している。現在、ハノイの人口は約645万人だが、経済成長で今後も人□増加が予想され、水不足も懸念されている状況で、東京都の水道技術と運営能力は確かに国際貢献に繋がるだろう。

企業、他の自治体と連携し積極展開へ

 東京都はほかにも住友商事と手がけるマレーシアの首都クアラルンプールの上下水道のPPP事業、東芝と手がけるインドのデリー、ムンバイの工業団地に新たな浄水場を作る事業、丸紅、日本工営とともに手がけるインドネシア・ウンブラン湧水の配水事業など大都市での案件を受注すべく、調査を進めている。
 この過程で、さらなる「民間企業、自治体との連携が必要」と判断した都は、10年12月、横浜、川崎、名古屋、大阪、北九州など海外展開を図る他の自治体に呼び掛けを行い「自治体水道国際展開プラットフォーム」を設立したほか、昨年11月には「国際貢献ビジネス民間企業支援プログラム」をスタート.JICAの案件を受注した経験、海外に事業所を有するなどの要件を満たす企業55社を登録し、海外行政機関や日本の企業同士のマッチング機会の提供、水道施設の視察受け入れなどを実施している。この「国際貢献ビジネス民間企業支援プログラム」の反響は大きく、登録後も参加を希望する企業が後を絶たなかったため、都は今年1月18日、登録企業の常時受付を開始することを発表した。この反応を見ても、民間企業の水ビジネスヘの関心は高まるばかりだが、東京都は今後、どういう展開を考えているのだろうか。
 「様々な仕組みが整いつつあるので、他の自治体や企業と連携してより多くの海外の案件に携わり、世界の水事贋の改善に貢献したいと思います。ただやはり、地 方公共団体ですし、水道局の運営は水道料金でやっていて、それを海外で無駄に使う訳にはいかないので、海外事業の収支計画とリスクをしっかり見て判断しな くてはいけないと思います」。 これまで、自治体が国際貢献をする場合、研修生の受け入れや現地でのコンサルティングなど小規模な技術協力に限られてきた。しかし、東京都は「安全な水にアクセスできない人が世界にはたくさんいるが、従来のような支援ではスピード感を持った改善にならない」(市村氏)という思いから、海外展開を加連させている。課題はODAに頼らずに事業を始められるか。現在進めている案件は全てODAが絡んでいるのが現状だが、もし今後、世界屈指の技術力を評価されてODA抜きで案件を受注し、現地の水事情を改善しながら利益を上げて自力で事業を継続できるようになれば、世界の水市場で東京の存在感は今よりずっと増すだろう。 




いまだ手つかずのプールや用水池で活用

汚染水処理トレーラー開発

 今の日本で「水」といえば、放射能汚染水も欠かせないトピックだ。広範かつ膨大な被害で汚染水の処理が追いついていない福島で、可搬型処理システムが解決の糸口となるか。

 現在、福島の各地で放射性物質の除染作業が進んでいる。しかし、例えば福島県内の幼稚園、小中学校、高等学校、養護学校などにある多数のプールや、3千以上もある農業用取水施設の除染に関しては個々で対応しているのが現状で、抜本的な解決の目途は立っていない。また、建物などの除染に用いられる主な方法が、建物に高圧の水を噴射して付着していた放射性物質を洗い落とす高圧ジェット洗浄だが、その過程で水に流されたセシウムがそのまま地中にしみ込んでしまっていることも多い。水に溶けたセシウムは表土を除染しても回収できる量に限度があり、地下水汚染も懸念されている。

可搬型で現地での除染が可能に

 

 昨年末、東芝とIHIは、このように福島県内の方々で深刻化するセシウム汚染水をその場で処理できる可搬型の放射能汚染水処理システム「SARRY-Aqua」の開発を発表した。
 「現在、福島原発内で使用されている放射能汚染水処理システムSARRYを小型化したもので、トレーラーにSARRYと同じセシウム吸着材の人エゼオライトを積んだ2百Lドラム缶を6缶備えています。2缶は予備なので、4缶を使ってセシウムを除去しますが、1トン=1m3の水を1時間で処理でき、飲み木の法定基準である10Bq/kg以下まで低減可能です」(東芝幹部)
 このSARRY-Aquaはヽプールや農業用水池、高圧ジェット洗浄した後に出る汚染木の除染を想定しており、問い合わせがあった自治体や官公庁と稼働に向けて既に協議を進めている。すぐに稼働できるのはプロトタイプの1台のみだが、現場のニーズ次第では早期の増産も検討している。

本格投入も秒読み。課題は効率化

 一方で課題もある。例えば25mプールで幅10m、水深1mだと仮定すると250m3になる。稼働させるのが1台だけだと250時間、10日以上かかることになり、同サイズのプールなら月に3ヵ所が限界だ.さらにSARRY-Aquaに備えるゼオライトの交換の目安が200m3で、予備の2缶を使用しても1度のプールの除染で使用限度ギリギリになり、その都度、廃棄物の処理に時間をとられてしまう。法定基準をクリアするために必要な過程ながら、今より巨大なトレーラーを使用して積載できるドラム缶を増やすなど、より効率化が進めば、さらにニーズが高まるだろう。
 とはいえ、福島原発で稼働するSARRYとほぼ同じ構造で、「何度も水を浄化するプロセスは不要で、1度浄化すればその後は問題なく使用できるようになります。ゼオライトも汚染濃度が薄ければ200・より長く使用できるので、状況次第です」(東芝幹部)というように、性能も安全性も証明されている。現地住民の不安や何もしなければ日々汚染が進む現状を考えると、早期の本格稼働とさらなる進化が待たれる。 



磁性微粒子を使った新技術

処理速度アップ、廃棄物大幅滅も

 これまで原発や放射能とは関わりのなかったJNCが、セシウム汚染水処理の画期的な技術を考案。実用化されれば処理方法が劇的に変わる可能性を持つ。

 昨年12月、化学メーカーのJNCが放射性セシウム汚染木のセシウム除去に開する新技術の開発に成功したと発表した。この技術はまず、セシウムと結合する性質を持つ水溶性のフェロシアン化合物をセシウム汚染水に加えて、その水に鉄イオン(塩化鉄)を投入し、セシウム結合体とする。そこにアルカリ水溶液を加えると、セシウム結合体を取り込んだ磁性体となり、磁性体を磁器回収装置内で引き寄せて水と分離することで、セシウム除去と濃縮、回収が可能になる。

放射能に関わりのなかった技術を転用

 JNCはもともと磁性微粒子と刺激応答材料を使用し、例えば血中で特定のたんぱく質や遺伝子に結合させ、その化学反応で生まれた磁性体を磁力で引き寄せて分離するという技術を研究開発していた。この技術は血液検査などで使用される診断システムで、セシウム除去は専門外だ。しかし、昨年3月の原発事故を機に同社の技術者が同社の技術をセシウム除去にも応用できるのではないかと思い立ち、今回の開発に結び付いた。
 磁性微粒子を使ったセシウム除去の特徴は、処理スピードだ。
 「例えば、福島原発建屋内部にある非常にホットな汚染木を想定した海水混合のセシウム濃度約10ppmの水溶液は100m3のビーカースケールでは5分以内でセシウムを99.5%除去可能です。ゼオライトのような個体を使用してそれに吸着させるためには保持時間がある程度必要だと思うのですが、溶液を加えて均一にするだけの手順で全て反応が終わるので、短時間で高い処理能力を持つことができます。原理的には容量が大きくなっても反応は変わらないので、例えば何10m3レベルの大きなタンクで処理することもできると思います」。さらに廃棄物量でも差が出るという。 「ゼオライトは汚染水とほぼ同じ容量が必要ですが、磁性微粒子を使用して処理した場合はもとの汚染水の容積に対して廃棄物を200分の1に縮小できます」。

他社との提携も視野に実用化を検討中

 一連の処理に必要な材料は全て市販のものなので、実用化されればゼオライトを使用する場合と比べ、処理スピードが連く、廃棄物量を低減でき、コストも安くなる。実験段階ながらまさに画期的な技術で、昨年末にリリースを出して以来、原子力発電所及び周辺設備の設計や製造業務を行っている企業から複数の問い合わせが入っている。同社は今後、実用化に向けて他社との協議を進め、提携も視野に入れているという。放射能と全く関わりのなかった研究者が考案した新技術がセシウム汚染水の処理速度を一気に加連させる可能性があり、今後に注目が集まる。



諸外国で導入が進む「多様性を守る」排水管理

企業の評価高める「生物応答」

 日本では、有害物質を特定して排水規制をしている。しかし、多種多様な化学物質の影響を測るため、諸外国では水生生物を利用した排水規制手法が導入され始めている。

 日本ではこれまで水質汚濁防止法などをベースに、有害物質を個別に特定することで規制や排水管理を行ってきた。現在、有害物質として規制対象になっているのは26種類、「公共用水域に多量に排出されることにより人の健康や生活環境に被害を生ずるおそれがある」と定義される指定物質は52種類ある。この化学物質の個別規制に加えて、施設の構造や管理方法を法制化することで、水質の汚染に対応してきた歴史がある。

多様な化学物質の影響を測定

 しかし化学が日々進化する今の時代、工場や事業所から排出される水には多種多様な化学物質が含まれており、その複合的な影響や、規制の対象に含まれていなくても生物に影響を及ぼす可能性がある新たな物質、微量でも他の物質と反応して毒性を帯びる可能性がある物質などの存在は否定できない。このように従来のような化学物質の個別対応では測りきれない水質問題に対応するために、生物応答を用いた水環境管理手法の導入について、検討が始まったのだ。
 この手法は、どんなものなのだろうか。「小さな魚やミジンコのような生物を使って排水に含まれる化学物質の影響を計るための手法で、現在、アメリカ、カナダ、ドイツ、韓国などで導入されています。アメリカではWET(WholeEmuent Toxicityニ全排水毒性)試験と呼ばれ、化学分析と組み合わせて評価をしていて、化学分析とWET試験の基準の両方をクリアしないと排水として認められないという事例もあります」(環境省水・大気環境局水環境課)

行政を先行する民間企業

 アメリカの一部の州では地方自治体の全ての排水施設でWET試験が実施されるなど、浸透具合は相当なものだ。環境問題に敏感な欧米とともに韓国がこの先進的手法を導入しているのも興味深い。韓国では2002年から導入プランが検討され、昨年から本格的に生物を用いた排水排出管理システムを導入している。
 一方で日本はまだ「導入の可否を含めて検討している段階」(環境省)で、まだ法制化の目途も立っていないのが現状だ。そこで、今年1月31日に環境省と国立環境研究所は諸外国のバイオアッセイの事例を紹介するセミナーを開催。200人を超える聴衆が詰めかけた。セミナーに参加した企業のなかには既にアメリカのVVETの手法を取り入れて、独自の排水管理に取り組んでいるところもあるという。排水と言えば汚染というイメージがあるが、生物応答を用いて管理すれば、例えば「生物多様性を守る」というようなPRにも繋がる。今後、環境対応をアピールしたい企業にとって排水管理は義務的な"守り"ではなぐ攻めるべきポインドになっていくだろう。  




WEEF

Copyright (C) WINDOFWEEF All Rights Reserved.
inserted by FC2 system