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ウォーターフットプリントとは

 食料や製品の生産から消費までの全過程、あるいは組織・地域において使用される水の総量と定義され、ISO(国際標準化機構)が国際規格化に向けた作業を進めている。
  データは、Hoekstra, A.Y. and Chapagain, A.K. (2007) Water footprints of nations: water use by people as a function of their consumption pattern, Water Resources Management. 21(1): 35-48.(ホームページ「ウォーターフットプリン」載録)にもとづいている。
尚、品目比較については下図参照)。



 ウォーターフットプリント(水の足跡)の品目比較の値をかかげた。これは、人々が消費する財・サービスの生産に使用された水の全体量をあらわしている(世界全体での平均値)。
 データは、水資源の大切さを啓発する目的で、上述したオランダ東部のトウェンテ大学(University of Twente)とユネスコの共同プロジェクトとして運営されてるホームページ「ウォーター・フットプリント」にもとづいている。
 飲み水や洗濯などで直接使用する水だけでなく、食品や日用品を消費すればそれらの生産に要した水を間接的に使用していることとなり、それらの全体を意識することが大切だとされる。

 この論文によれば、諸国民のウォーターフットプリントを決定する要因としては以下の4つが主要のものとされる。

・消費規模(国民総所得の規模と関連)
・消費パターン(肉類消費が多いか少ないかなど)
・気候(作物の生育条件)
・農法(水利用の効率性)

 米国と同じようにウォーターフットプリントが大きいが、要因が全く異なるのはタイである。タイでは工業製品のウォーターフットプリントが小さく、農産物のそれが大きい。しかし農産物に関しても、米国のように肉類消費が多いためでなく、作物生産の水効率が悪いためウォーターフットプリントが大きくなっている(タイの米収量は1997〜2001平均で世界平均3.9トン/haに対して2.5トン/haという)。
 そこで主要国の中でウォーターフットプリントが最も小さいのは中国の702m3である。豊かな国ほど工業製品によるウォーターフットプリントが大きいという傾向がある。カナダ、フランス、オランダなどがその例である。日本は欧米と同様消費大国であるが、工業製品のウォーターフットプリントはそれほど大きくない。工業生産の水効率が高いためであろう。また、ウォーターフットプリントの対外依存度も関心を引く(下表参照)。

 世界平均では、対外依存度(全体に占める農工輸入品の比率)は16.1%であるが、日本は64.4%と6割以上の水が海外依存である。主要国の中で最も高い海外依存度の国はオランダ82.0%であり、ヨルダン73.0%、英国70.4%が続いている。逆に依存度の低い国はインド1.6%、バングラデシュ3.6%などである。
 ちなみにヨルダンは水効率のよりよい米国から小麦や米を輸入することによってウォーターフットプリントを縮小することに成功したといわれる。
 ウォーターフットプリントの国際移動(国際移動する水をバーチャル・ウォーターともいう)が水の安全保障にとっても重要な関心事となっている。農産物の輸出国では、作物や飼料の輸出とともに水も輸出していることとなる。米国では作物生産に要する水の29.4%は輸出しており、オーストラリアに至っては、83.0%を輸出に振り向けている勘定となる。工業製品も同様であり、いまや世界の工場となっている中国では、工業製品の生産に要する水の35.9%を輸出していることとなる。



水ストレス

 ここでウォーターフットプリントの基本的な考え方を整理しておきたい。
 これが水ストレス(Water Stress)、またはWater Scarcityと呼ばれる指標は技術的な詳細は抜きにして、ごく大雑把に言うと、以下のように定義される。

 河川や地下水が供給する量に比較してどのくらいの量の水を使っているかを表す指標で、100%を超えると水飢饉ということになる。一般的には40%を超えると、水ストレスが高い地域だと判定する。
 巻頭の図(「2025年の世界の水ストレス予想図」)の水ストレス予想図にあるように、将来においても日本は比較的水ストレスは少なくて済む地域に色分けされている。では、これで日本や日本企業は安心かというと、そうはいかない。ここで、ウォーターフットプリント(Water Footprint)とか仮想水(Virtual Water)といった概念が登場し、日本とこうした世界の水ストレスを結びつける役割を果たそうとしている。

1kgの牛肉のために16tの水が必要

 これは、肉屋さんが日本で1kgの牛肉を販売するために16tもの水が必要なわけではない。牛肉のサプライチェーンの上流をたどると、どこかの国で16tの水が使われているというのである。これはとりもなおさず、ライフサイクルアセスメントの考え方に基づいた数字ともいえる。牛肉をLCA分析すると、インプットとしての水の消費量が算定されるので、これを消費者に届く段階まで足し算するとこの数字になる。
 一方、仮想水は類似の概念であるが、「仮にすべて日本で同じ牛肉を生産したら16t必要になるはず」という解釈になる。すなわち実際に外国で何t使われているかは問わず、「牛肉1kgを輸入するということは水を16t輸入しているのに等しい。その分だけ日本の水を別の用途に使うことができているから」という視点での評価である。
 「ある国の産業が外国の水ストレスの高い地域に与える影響」に集まってきており、どちらかというと仮想水よりもウォーターフットプリントが中心的な関心事になっている。このような論点からすれば、水の豊かな日本にある企業も、商品に関わるウォーターフットプリントを無視するわけにはいかない。当然、製品ラベルや認証も出てくるだろう。
 さらに、企業のすべてのサプライチェーンでどれだけの水ストレスを発生させているのかを定量評価して認証し、その後、企業ランキングを公表すると言った一連の動きに繋がっていく可能性が高い。
 国連環境計画は「CORPORATE WATER ACCOUNTING (企業の水会計)」という言葉を使い始めており、将来は会計報告の対象にもなりかねない。まずは、会計監査法人や環境監査法人にとってはビジネスチャンス到来といえるだろうが、その分、製造業などにとっては経営リスクが増えることになる。

 このような外部評価リスクだけでなく、水ストレスの高い地域で重要な原料生産をおこなっており、その水消費量が多いとした場合、それだけその製品の生産リスクも高いと言える。水の供給停止による高コスト化や原料調達難が想定される。
 海外投資家の投資判断に大きく影響すると言われている社会的責任投資の代表的指標、ダウ・ジョーンズ・サステイナビリティ・インデックス(DJSI)の企業調査においても、今年は水ストレス関連の項目が大幅に増えていた。ウォーターフットプリントは、投資家の視点からも重要な企業評価指標になりつつある。

始まった標準化戦争

 大きな企業経営リスクやビジネスチャンスが新たに発生するテーマでは、決まって標準化の競争が起こる。"先手必勝の原則"に則る形で、まずは冒頭に述べたプライベート標準が走り始めている。ウォーターフットプリントという言葉の生みの親であるウォーターフットプリントネットワークは、早期に国際標準を確立すると宣言している。また強力なライバルとしてWBCSD(World Business Council for Sustainable Development)があり、既に評価ツールを無償提供している。

また、"受託者責任(Stewardship)"を掲げ、国際標準の作成を目指してウォーターラウンドテーブル(水円卓会議)を設立した「ウォーター・スチュワードシップ・アライアンス」の存在も見逃せない。
 いずれもNGOであるが、国際的な標準規格の発行に向けて着々と各国から仲間を集め、世界のメジャーになるべく開発を進めている。これらのアライアンスに加わる企業としては、当然ながら水メジャーや飲料メーカーのような水との関わりが深い産業が筆頭に並ぶが、ほかに各国の行政や国連も参加している。不思議なことに国連は水関連のアライアンスの多くに参加しており、「この問題には国連も大きな関心を持っている」という強い印象を関係者に与えている。
 現状で日本企業の"認識"はまだ低いが後手に回ることは避けたい。後になるほど日本の意見を通すのが難しくなるというのが世界の覇権争いの常識というものだろう。

  

関連項目


脚注及びリンク





 

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